グラン・ゼコールに見るフランスの一面
[フランス] 投稿日時:2018/05/29(火) 10:00

パリ政治学院校舎
しかし、グラン・ゼコールの入学者数は出身階層により大きな差があり、上級管理職や教員の子供に比べて、低所得者の子供がグラン・ゼコールに入学する割合は非常に少なく、全体の一割程度である。これは様々な原因が考えられるが、本人の能力だけでなく、親から与えられる文化、子供の学業に対するストラテジー、親の経済力、外国に出自を持つこと等、外部的要因が大きく関わっている。これまでフランスは教育の無償化・義務化による教育機会の拡大、奨学金制度の整備、試験を受ける機会の増加や試験の多様化、困難地区への教育援助等によって、より広い範囲で「機会の平等」を保障する試みを行ってきた。しかし、経済・社会・文化的状況による学業成功の差は未だに大きなものであり、特に高等教育機関ではこの傾向が顕著である。
そんな中、2001年よりパリ政治学院は社会的・経済的に困難を抱える生徒が多く居住するZEP(教育優先地区)の高校と協定を結び、これらから選ばれた生徒を対象として、入学試験の際に従来の筆記試験を免除し、面接と成績審査だけで合否を決めるという選抜方式を導入した。子供達の能力を筆記試験では無く、違う角度から測るというものだ。私は数年前、アルジャントゥイユ市にある協定校の一つを訪問したことがある。パリの郊外に位置し、失業率が非常に高く、治安が悪く、移民や外国人が多く居住しているエリアであった。学業成績も全国平均と比べて低く、グラン・ゼコールに行くということなど考えたことがない生徒も多くいる。日本人が来ることが珍しかったのか、多くの生徒が集まってきて、話を聞く事が出来た。特別選抜制度の存在は一年生では知らない生徒もいたが、三年生はほとんどが知っていた。同校は特別選抜制度の準備クラスを設け、全学年で30名程度の参加者がいた。合格者は毎年数名程度だが、準備クラスに参加した生徒は、パリ政治学院に合格しなくても、他の大学や、グラン・ゼコールに行くという。特別選抜制度に参加しなければ、考えることはなかっただろう道や選択が増え、多くの参加者が高等教育機関に進んでいるという声が聞かれた。

パリ政治学院入り口
パリ政治学院の発表によると、特別選抜制度で合格した学生は、他の学生と変わらない成績を収め、就職も他の学生同様成功している。似たような制度は他のグラン・ゼコールにも広がりを見せているが、これらの制度を利用しグラン・ゼコールに合格する生徒は一部に限られ、全体的に見るとその効果は限定的である。パリ政治学院は「いかなる家庭で生まれ育っても、いかなる社会階層出身であろうと、いかなる文化を持とうと、最も才能と能力のある者は、パリ政治学院に入学する資格がある」と述べている。この「機会の平等」がこれからどのように保障されて行くのか、今後を見守りたい。
Masumoto Sayaka