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Masumoto Sayaka

グラン・ゼコールに見るフランスの一面 [フランスの教育]

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フランスに興味がある人なら「グラン・ゼコール」という言葉は聞いたことがあるかもしれない。フランスの高等教育機関は、大きく大学とグラン・ゼコールとに分けられる。大学が知識の伝達や研究を主な役割としているのに対し、グラン・ゼコールはエンジニアや官僚、管理職等を育てる役割を果たしてきた。学生の選抜方法にも大きな違いが見られ、大学にはバカロレアを取得した者は登録料のみでほぼ無償、無試験(2018年9月から、定員を超えた場合バカロレアの結果や高校の成績審査等による選抜を実施)で入学することができる。一方で、グラン・ゼコールは個別の入学試験が課せられ、難関グラン・ゼコールに入学するためには高校卒業後「プレパ」と呼ばれる受験準備クラスで二年間の準備をし、非常に厳しい選抜を通らなければならない。また、グラン・ゼコールの多くは学費が高く、経済的に余裕のない者には不利なシステムになっている。フランスのエリートはこれらグラン・ゼコールから多く生み出されている。エコール・ポリテクニークや、国立行政学院、パリ政治学院、HEC経営大学院等は名門校として有名であるが、中心的なグラン・ゼコール十数校の出身者が経済界、政治界などに占める役割は非常に大きい。


パリ政治学院校舎

しかし、グラン・ゼコールの入学者数は出身階層により大きな差があり、上級管理職や教員の子供に比べて、低所得者の子供がグラン・ゼコールに入学する割合は非常に少なく、全体の一割程度である。これは様々な原因が考えられるが、本人の能力だけでなく、親から与えられる文化、子供の学業に対するストラテジー、親の経済力、外国に出自を持つこと等、外部的要因が大きく関わっている。これまでフランスは教育の無償化・義務化による教育機会の拡大、奨学金制度の整備、試験を受ける機会の増加や試験の多様化、困難地区への教育援助等によって、より広い範囲で「機会の平等」を保障する試みを行ってきた。しかし、経済・社会・文化的状況による学業成功の差は未だに大きなものであり、特に高等教育機関ではこの傾向が顕著である。


そんな中、2001年よりパリ政治学院は社会的・経済的に困難を抱える生徒が多く居住するZEP(教育優先地区)の高校と協定を結び、これらから選ばれた生徒を対象として、入学試験の際に従来の筆記試験を免除し、面接と成績審査だけで合否を決めるという選抜方式を導入した。子供達の能力を筆記試験では無く、違う角度から測るというものだ。私は数年前、アルジャントゥイユ市にある協定校の一つを訪問したことがある。パリの郊外に位置し、失業率が非常に高く、治安が悪く、移民や外国人が多く居住しているエリアであった。学業成績も全国平均と比べて低く、グラン・ゼコールに行くということなど考えたことがない生徒も多くいる。日本人が来ることが珍しかったのか、多くの生徒が集まってきて、話を聞く事が出来た。特別選抜制度の存在は一年生では知らない生徒もいたが、三年生はほとんどが知っていた。同校は特別選抜制度の準備クラスを設け、全学年で30名程度の参加者がいた。合格者は毎年数名程度だが、準備クラスに参加した生徒は、パリ政治学院に合格しなくても、他の大学や、グラン・ゼコールに行くという。特別選抜制度に参加しなければ、考えることはなかっただろう道や選択が増え、多くの参加者が高等教育機関に進んでいるという声が聞かれた。


パリ政治学院入り口


パリ政治学院の発表によると、特別選抜制度で合格した学生は、他の学生と変わらない成績を収め、就職も他の学生同様成功している。似たような制度は他のグラン・ゼコールにも広がりを見せているが、これらの制度を利用しグラン・ゼコールに合格する生徒は一部に限られ、全体的に見るとその効果は限定的である。パリ政治学院は「いかなる家庭で生まれ育っても、いかなる社会階層出身であろうと、いかなる文化を持とうと、最も才能と能力のある者は、パリ政治学院に入学する資格がある」と述べている。この「機会の平等」がこれからどのように保障されて行くのか、今後を見守りたい。

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